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映画「JOKER」を観て思うこと(ネタバレ注意)

JOKERを観て、思うことがありすぎて、整理のために書こうと思います。感想としては、怖いというよりも、悲しく、深く考えさせられることが多く、私にできる何かをやらなきゃな、と思ったということです。ちなみに、私はバットマンファンでもなく、JOKERファンでもなかったのですが、本映画を観るに先立って、ダークナイトと、バットマンビギンズは観ました。そして、本作はバットマンシリーズということを離れて、強烈なメッセージを届ける社会派映画だと、私は認識しました。本作はアーサーという心優しい男が、JOKERになっていく様子を淡々と描いているのですが、逆に、アーサーがJOKERにならなくてよかったはずの反実仮想をたくさん伝えてくれている映画だとも思いました。

映画を観て思ったことを、

  1. アーサーはただたださみしいだけ、ということ
  2. 不運にも殺人によって自己承認欲求を満たしてしまったということ
  3. 現実世界に生きる私たちにとっても、これっぽっちも他人事ではないこと、私たちにできること

という3つの点で整理したいと思います。

1.アーサーはただたださみしいだけ、ということ

一番象徴的だったのが、トーマス・ウェインとトイレで話すシーン。「ただハグして、愛してほしいだけなんだよ。」という趣旨の言葉。これは、アーサーが切に願っていた想いなのだと。彼は、愛されるという安全・安心の欲求と承認欲求を満たしたくて、それを父親(と思った人物)に求めにいったのだと思いました。ただ不運にも、事実でないがゆえに拒絶されてしまう。彼自身のコミュニケーション不足や、相手の許容力のなさにより、殴られてしまう。他にも、アーサーが日々出会っていく人々から、多かれ少なかれ、拒絶されるシーンがあります。バスの中で出会った子ども連れのお母さん、仕事の仲間、行政の福祉担当の人。誰もが、彼に対して、実直に向き合わず、彼は優しさや愛に触れるということがなかった。ただただ、一つ一つの瞬間が、全てさみしいのだと思いました。(「ゲイリーだけは、僕に優しくしてくれた」という言葉がありますが。)

2.不運にも殺人によって自己承認欲求を満たしてしまったということ

そして、図らずも地下鉄の中で3人の男性を撃ち殺し、新聞に載り、ニュースで騒がれ、一部の貧困層の支持を得たことにより、彼は、不運にも殺人によってはじめて自己承認欲求を満たしてしまうのです。こうしたことで、彼の心の扉が(ある意味間違った方向に)開け放たれ、殺人を繰り返すようになってしまう。抑圧された自己が解放されていってしまったのです。映画的には、その様子が演じるホアキン・フェニックスのダンスに美しく表現されています。また、非力なアーサーがJOKERになってしまう直接的なTriggerとなったのが、友人から譲り受けた銃(銃をもっていなければ、最初に子どもたちに受けた暴行のように、単に暴行を受けただけの形で終わっていた可能性がある)であり、こうしたストーリーは、銃社会への批判とも受け取ることができました。

3.現実世界に生きる私たちにとっても、これっぽっちも他人事ではないこと、私たちにできること

私が受け取った強烈なメッセージは、悪はどこかの「個」から生まれるのではなく、我々「社会」が生み出しているのだ、ということです。トーマス・ウェインの政策がなければ、電車の中での暴行がなければ、ピエロの仕事を首にならなければ、バスの中で誰かが優しい言葉をかけていれば、福祉担当の人が彼に本気で向き合っていれば、、、反実仮想を描けば、アーサーはJOKERにならなかった可能性がある。一つ一つの一見取るに足らないことの積み重ねや、一人の政治家の決断(福祉サービスや薬の停止)が、強烈な「悪」を生み出す必要がある。そしてそれは「悪」ではないのかもしれないということです。私のように、ごく普通に生きている一人の人間にとっても、全く他人事ではないと思います。オペラの劇場から出てきていた観客の一人が、私かもしれない。アーサーの行った小児病棟の看護師が、私かもしれない。そうした時に、私たちはどのような行動をとれるのだろうか。どこまで優しくなれるのだろうか。そういったことを問う映画だと、私は思いました。

JOKERの文脈と少しずれますが、少し前の記事で紹介された、彼女のような保護司とどこか早い段階でアーサーも出会えれば、極端なVillainになることはなかったのではないか。 

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人と本気で向き合い、愛を届けられる人が、世の中にどのくらいいるでしょうか。「JOKER」は、バットマンシリーズということを離れて、一つの政策が人の人生を全く変えてしまうおそろしさや、単純に周囲の人に対して優しくあることの大切さを、非常にわかりやすく伝えてくれる映画だと感じました。政治にもっと本気で向き合おう、また、人に対して常にまっすぐに、フラットに、優しくあろうと、思いました。