何がしたいかわからない時に読み書きするもの

人生って何、自分は何がしたいんだっけ、あれ、仕事って何のためにするんだっけ、って思った時に読み書きする文章

社会的インパクトを見える化するニーズは、結局どこからくるのか

仕事の上で、社会的インパクト、ということをよく話す。おおむね、社会にとって良い影響のある事は何かを追求し、悪い影響のあることを減らし、より良い社会を作っていくための要素を考えよう、という概念である。この「社会的インパクト」を見える化したい(又は言語化したい)というニーズが、営利非営利問わず、最近高まってきていると思う(単純に言えば、社会的インパクトに関する評価を事業とする私たちの会社に対して、オーダーが増えてきている)。自分たちの組織や事業が、何をやっていて、それが社会にどのように影響を及ぼしているかを、明らかにしたい、というニーズである。社会的インパクトを改めて見える化することは、タダではない。資金を投じてまでやりたい、というニーズはどこから来るのか。実経験に基づいて言うと、「組織レベルで」ニーズが生まれる理由は大まかに言って、3つあると思う(注:教科書的なよく言われる”評価”目的の話はさておき、実感に基づいてまとめている)。ちなみに、「(組織の中にいる)個人レベルで」ニーズが生まれる理由はまた別にあるので、追って整理する。

1つは、資金調達やロビーのため。これは非営利組織からのニーズが多いと思う。「社会に対してこれだけ良いことをやっている」というのを、「わかりやすく」(文章をダラダラ書くだけではなく)見せることで、より寄付や助成金を集めやすくする、というものだ。当たり前ながら、非営利組織はその大義をもって資金調達を行っているケースが多いので、よりよくインパクトを見せることができれば、資金もよりよく集まるんじゃないか、という期待である。営利組織に関しても、多くはないが、資金調達のため、というのがある。多くの株主は「インパクト」を求めて投資しているわけではないので、一部上場の大企業が一義的に資金調達のためにインパクトを見える化したい!ということは少ない(というか見聞きしたことはない)が、ベンチャー企業等がいわゆるインパクトを求めて会社に資金を投じる「インパクト投資」を求めて、社会的インパクトの見える化を求めるケースがある。また、大企業においてもESG投資やインパクト投資の流れから、社会に良いことをしている方が、していないよりは、資金が集まりそうだよね、くらいの感覚はあるのだと思う(実際にその方が資金調達がしやすくなるという根拠は今のところないと思う)。お金がなければ事業を持続的に行っていくことはできない。まず、お金を集めるために、自分たちのインパクトを見せるのである。とてもわかりやすい、能動的な動機だと思う。

それから、説明責任・広報のため。これはどちらかというと営利組織からのニーズが高い。大企業においても、CSRCSVといった流れから、株主からも社会的責任が問われ始めている。社会に対して良いことをやっているのである、ということをよりわかりやすく明示することは、企業においても重要になってきている。言われるから/求められるから、やらざるを得ない、という場合もあるが、企業においてはどちらかというとそう言った方が(資金調達につながるかどうかはわからないけれど)Coolだから、みたいな能動性もあると思う。また、非営利組織に関して言えば、助成金をもらった先から評価結果を出してと言われる、行政の補助金をもらっているけれど、評価しなくてはいけない、などの受動的な動機が多い(寄付者は元々組織のミッションやイメージに共感して資金提供しているので、わざわざインパクトを見せてほしい、という強いニーズは少ない)。また、営利組織にしても非営利組織にしても、外部から求められていないのに、人的・金銭的リソースを投じてまでポジティブかネガティブかもわからない、社会的インパクトを見える化しようとするのは、資金に余裕があるか、よほどそういったことに関心がる、という感じがする。

最後に、組織で働く人材のためである。これも営利組織からのニーズが高い。営利組織で社会的インパクトを見える化したい、というオーダーがあるときには、結構このニーズはあると思う。要は、企業のために頑張って働いている人がいっぱいいるんだけれど、なんで働いているんだっけ、企業が目指すべきことって何なんだっけ?とわからなくなってきていて、いわゆるミッションを再度定義するために、社会の中での役割を再認識したい、というところから来る能動的なニーズである。実は自分たちのやっていることって、こんな社会的意義があるじゃないか、という再発見の旅に出て、組織で働くモチベーションを上げる、という効果がある。実際、ビジネスコンサル的な視点ではなく、こうした「社会の中での意義」といったところから紐解くプロセスは、(お金を稼ぐということを抜きにして)なぜ働くのか、という大きな問いに少しでもヒントを与えてくれるので、意味があると私は思っている。非営利組織では、本来は社会的意義というのが明確なはずなので、改めてお金をかけてまでこうした価値を見える化する必要があるかと言われるとそうでもないケースが多いとは思うが、ミッションが揺らいでいたり、再編を問われているような事業の場合には、こうしたニーズが生まれると思う。なぜ人が働くのか、組織が存続する必要があるのか、そうした問いに答えたい、というニーズである。

弊社に依頼が来る場合、こうした3パターンのニーズがあると思うのだが、よく言われるよりインパクトを高めるために」インパクトを見える化したいのです、というニーズは、組織としては実はまだないのではないかな、と思う。そもそも現状把握ができていないということもあるが、インパクトを高めることが組織の存続性を高めることにつながるという実感が、まだないのだと思う。例えば、多くの非営利組織は、日々、そもそも肌感覚で、インパクトを感じ取っている。組織で働く個人は組織のミッションに共感して働いており、みな口を揃えて「こんなに良い事業なのである」ということの方が多い。だから、わざわざお金を払って、自分たちのインパクトを見える化して、現状把握するインセンティブはそんなに強くない。「組織として」自分たちの健康状態をお金を払って把握したいという組織は、よほど潤っている組織か、かなり意識の高い組織に限られると思う。とはいえ、非営利組織ではこういったニーズが生まれる可能性は高い。事業実施で肌感覚のインパクトが感じられなくなっている場合、インパクトを見える化し、事業そのもの、組織そのものの改善に役立てたいというニーズは生まれるだろう。そして、インパクトの向上が組織の存続につながっていくという想像もしやすいはずである。営利組織においては、利益の追求のための資金投入は可能だろうが、インパクト向上のため、ましてやインパクトを向上したところで利益につながるかわからないものに、リソース投入はしづらいだろう。組織存続につながるかがわからないまま、投資することはかなり難しいはずである。

今、社会的に良いこと、社会的インパクト○○の世界観を進めていくアプローチは2つあると思う。1つは、エゴと公共善を結びつける方法である。公共善を追求すれば、おのれも儲かる、得する、という世界観を作り上げるということ。インパクト投資という世界で語られる、インパクトを追求すれば利益追求、組織の存続も可能になる、というようなロジックを作ることだ。もう一つは、とにかくエゴを解脱して、公共善に向かうのが当たり前なのだよ、という世界観。それぞれの組織が社会の利益のための責任を果たすのは当たり前で、それをやってないなんてカッコ悪いよね、という世界観である。こういう組織・人たちも一定数いるが、お金が全て、みたいな考え方の人の方が圧倒的にまだ多く、今後そちらの方がしばらくは多いんじゃないかなと思う。なので、こうした世界観で社会的インパクト○○の世界観を進めていくには、制度化する、義務化するといった方向性が早いと思う。税控除が得られるとか、上場したら必ず報告しなければならないとか。休眠預金では、受け取る団体が評価を義務付けられているので、一つこういった方向性なのかなと思う。

色々述べたが、個人的に、社会的インパクトの概念が本質的に広がっていくために最も可能性があるのは、「組織の人材のため」に見える化するニーズなのだと思う。これは、組織の社員エンゲージメントを高めたいというエゴと、実際に、社員一人一人がそのプロセスを通じて、公共善に向かう意義がある仕事をしているのだ、というエゴを解脱する体験をできるからだ。インパクト向上のためにインパクトを見える化する、という世界観はまだまだ遠くても、インパクトを見える化するプロセスを通じて、一人ひとりの働くことへの意識向上、意義を見出すことには貢献でき、それがより大きなインパクトを生み出すと考える。